彼は真っ直ぐな人。
彼は怒ると怖い人。
彼は優しい人。
彼はとっても体調がわるそうな人。
そんな彼とのファーストステップ。
ステップ&ステップ
「ねぇハヤテさん、一度きちんと検査受けたほうがいいですよ。」
「ごほ・・はぁ・・。」
中忍として任務について4年、あまりいい結果は残せなかった。
火影様からアカデミーで教鞭をとらないかと提案を受けたとき正直嬉しかった。
もう誰も傷つけなくてすむと、安堵した。
もともと教師になりたかったし、子供が好きな私を火影様が気遣ってくれての移動。
周りからはあまり賛成されなかったけど。
「、本当にいいの?特別上忍の試験薦められていたのに・・。」
「母さん、もうその話はしないで!私は教師になりたかったの。」
「はぁ・・・。」
「ため息厳禁。」
父親は無口な人(寡黙なんだと母は言う)で、特に反対はしてこなかった。
そして、やっとアカデミーの教壇に立つことができて1年、それからは毎日が
時の流れよりも早く過ぎていると感じるほど忙しかった。
彼と出会うまでは。
「あの、ゴホッ・・この書類はどうしたらいいでしょうかゴホゴホッ。」
それは人手がなくて、任務から戻ってきた仲間達の報告書をまとめる受付を頼まれた日のこと。
「あ、はい!こちらへ。えっと・・・月光ハヤテ特別上忍ですね。お疲れ様でした。」
「ゴホッ、ありがとうございます。」
「・・・ん、記入漏れもありません。お預かりします。」
「お願いします。」
「・・・あの」
「はい?」
「具合悪いようでしたら医療班お呼びしますけど・・。」
「ゴホッゴホッ、大丈夫です。いつものことですから。」
「そ、そうですか・・。」
これが彼、月光ハヤテとのファーストコンタクト。
それから数日経ち、私は彼のことなんてすっかり忘れてしまっていた。
でも、彼は突然私の前に現れた。
「ゴホッこんにちは。」
私は資料庫でイルカ先生に頼まれて整理をしているときで
「っひゃぁ!?」
突然自分しかいないと思っていた部屋で声をかけられ、忍らしからぬ声をあげてしまった。
「すみません、驚かせてしまってゴホッ。」
「あ・・月光特別上忍!」
最初は誰かわからなかったけど、顔色や咳で(失礼)思い出すことができた。
「はい、お名前をお伺いしてもゴホッよろしいでしょうか。」
うわー・・・具合悪そう・・・なんて思いながら、でも緊張が高まる。
特別上忍、つまりは上司。
「はっといいます。」
「さんですか・・ゴホッゴホッ。」
「っだ、大丈夫ですか?」
いつもこうだ、と言われてもさすがに心配になる。
「えぇ、私のことはハヤテと呼んでください。」
・・・・はい?
「そ、そんな!上司を名前で呼ぶなんて「じゃぁ命令ですゴホッ。」・・・はい。」
命令と言われたら断れない・・・。
「じゃぁその・・ハヤテさんは何か資料をお探しに?」
資料庫に来るってことは他には考えられない。
特に書類を持っているわけでもないし、しまいに来た、という風ではない。
「いえ、あなたを探しに。」
「わ、私をですか?何か御用でしょうか?」
何かしただろうか?「ゴホゴホ」もしかして任務?など心当たりを探るも思い当たるふしはない。
「ゴホッ、さん。私とお付き合いしていただけませんか?ゴホッ」
咳にはじまり咳に終わる・・ふふ・・って笑っちゃダメじゃん!
ん?お付き合いって・・・
「どこにでしょう?」←定番
「生涯、ともに、です。」←つわもの
生涯ともに?・・・ってえぇ!?
その言葉はいわゆる・・・。
「ぁの、えっと・・・それは告白、でしょうか・・?」
顔がこれでもかというほどに赤く染まっていく。
「いえ、プロポーズです。」
ハヤテさん、なんかいろんなステップ飛び越えてますよ。
正直、この時は彼のことを何も知らなかったし、もちろん私の答えはNO。
「ごめんなさい・・。」
「ゴホッ・・ではお友達になっていただけませんか?」
お友達だったら、いいかなと思った。
勇気を出して、恥ずかしかったけど顔を上げハヤテさんをみると
彼はとても優しくて、切なそうな色を瞳に帯びていた。
なんだかとても申し訳なくなって、私はまた下を向く。
「はい、お友達でしたら・・。」
「ありがとうございます。」
そういった彼の声はとても穏やかだった。
「仕事ゴホッお邪魔してすみません。また後ほど。」
「えっあハヤテさん!」
呼び止めるまもなく、顔を上げたらそこには彼は居なかった。
さすが特別上忍、とでもいうべきか・・。
「・・もう少し、話したかったな。」
彼に惹かれているわけでもなく、好意もとくにあるわけでもなく。
それでもどこか彼を気にしてしまう自分に戸惑った。
それはきっと、きっと彼の声色がどこか懐かしいからだろうと己を納得させる。
そう、どこか彼の声色は懐かしい。
「・・・仕事、仕事!」
それから資料庫の整理を急ピッチで終わらせ、ハヤテさんの言葉を必死に忘れようと勤めた。
『プロポーズです。』
「キャーッ!!」
「っ先生!?ど、どうしたんです!?」
ハヤテさんの言葉が頭の中から消えてくれなくて、リピートされた記憶に思わず叫んでしまった。
そこは職員室。
たまたまそこにいたイルカ先生はものすごく慌てながら駆け寄ってきてくれた。
「なにか虫でもいました!?」
「っい、いぇ・・なんでもありません!!」
恥ずかしい。
また顔が赤くなっていることだろう。
頬に熱を感じる。
「大丈夫ですか?顔、赤いですよ。熱でもあるんじゃ・・。」
「だ、大丈夫です!」
どこまでも心配してくれるイルカ先生。
やっぱり優しい方だな。
なんとか息を整えて、机につまれた書類の整理にあたる。
今日はこれが片付けば帰宅できる。
「先生、この書類は私が。今日はお帰りになったほうがいいです!」
「イルカ先生!?しかし・・
「ここ数ヶ月ろくに休まれていないじゃないですか、きっと疲れているんですよ!」・・はぁ・・」
さっさと私の机に積まれていた書類を自分の机に運び、私には薬まで渡してくれた。
なんていうか・・・
「申し訳ないです・・。」
「いいんですよ!先生になにかあったら、子供達が悲しみます。」
その笑顔はとても暖かくて、そのご好意に甘えさせてもらうことにした。
「では・・このお返しは後日必ず。」
「気にせんでください、お一人で大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。お先に失礼します。」
「お気をつけて、お大事に。」
今日はいつもと違うことが起きて、動揺した心を持ち直すことができなかった。
そのおかげでイルカ先生にご心配をおかけして・・。
「もっと、忍びとして自覚しなければ・・。」
「お帰りですか?ゴホッ」
裏門をでたところで再びあの声に引き止められた。
「っハヤテさん!どうなさったんですか?」
振り向いた先にいた彼はポケットに両手を突っ込み、塀に寄りかかりながら私をそっとその笑みで包み込んだ。
「一緒に、帰りたいと思いまして。」
あれから、ずっと待って・・?
「いつからそこにいらしたんですか!?」
「つい3時間ほど前からですゴホゴホッ」
ついって時間じゃないでしょう!!
いくら春という季節とはいえ、まだ夕方や明け方はかなり冷え込む。
今の時刻は午後7時。
「寒かったでしょう!?」
自分でも意識しないうちに手が彼の頬に触れる。
触れたそれはとても冷たくて。
「こんなに冷えてしまって・・。」
「ゴホッ、私は大丈夫です。それより夕飯でも・・。ゴホッ」
この寒空の中3時間も待たせてしまった私に拒否権はない。
「はい、喜んで。」
彼が案内してくれた居酒屋につくまで、私は彼の体調を悪化させてしまったのではと気が気ではなかった。
そんな私に彼は何度も「大丈夫です。」と咳をしながら答えてくれた。
居酒屋では暖かいおでんと、焼き鳥をご馳走になって、あつかんを薦められたけど丁重にお断りした。
はっきりいって私は酒に弱い。
飲んでしまうとほんの2口ほどで意識が飛んでしまう。
そんな私には羨ましいくらいハヤテさんはお酒に強い人だった。
だって、一升瓶を空にしてしまうくらい飲んでも、平然としているのだから。
そして、夜も深まろうとしている刻に家の前まで送ってくれた。
「今日はありがとうございました、とっても楽しかったです。」
「楽しんでいただけたようで・・ゴホッ」
「はい、ではおやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
ふっと、姿とともに遠ざかっていく気配にどこか寂しさを覚えながら私は布団の中に潜り込んだ。
居酒屋でしたとりとめもない話が頭の中でリピートされる。
私の仕事のこと、お互いの休日の過ごし方、好きな食べ物・・・。
会ったのは2回目なのに、どこか古い親友にあったような安堵感を彼は与えてくれた。
お友達になれてよかった。
また近いうちに会いたいな・・。
そう願いながら眠りについた。
私のステップはこの日踏み出された。
彼を好きだと気付くのはもう少し先のお話。
