雨の日は憂鬱だけど極たまに、思いがけない出会いを演出してくれるものだ。
雨と貴方と
「うへー・・今日もすごい雨。」
今日は仕事も休みで買出しを予定していた。
でも、外は雨。
かといってこの期を逃すと次いつ休みがもらえるのかわかったものではない。
「・・・仕方ない、行きますか・・。」
春の雨は湿気はあっても蒸し暑くはない。
むしろ寒いくらい。
でも、窓から流れてくる外気は冷たくははかったので春の新作をきて出かけることにする。
「濡れてもいいやつだし、何より早く来てみたかったんだよね〜。」
淡いモスグリーンのワンピースにクリーム色のカーデガン。
バッグは白のビニール製をチョイス。
靴は同じくビニールタイプのもの。
「と、行ってきます。」
ニャーと、律儀に返事をかえす同居人(猫!)に断って外にでる。
さぁ、行きましょう。
まず最初に向かったのは文具店。
ペンとペン墨を購入。
次は花屋。
頼んでおいたものを受取りにいく。
「こんにちわー。」
「あら、この雨の中良く来たわね。」
「滅多にない休みだからね!で、届いてる?」
「2日前にきたわよ、多肉植物のセット!」
「ありがとう〜!うわ・・小さくて可愛い・・・。」
「本当に好きね〜。今袋に入れるから。」
「ん、ありがっキャッ!!」
後ろから押し込まれる感じにドンッと誰かに押され前につんのめる。
なんとか転ばずにすんだものの・・・!
「危ないじゃないですか!」
「すまん!大丈夫・・・・・・?」
「!!お兄ちゃん・・・!」
振り返って怒鳴りつけた相手は、元隣人で歳の離れた幼馴染。
「はい、これで・・あら!ヒューズ君?久しぶりねぇ!」
「やぁおばさん!久しぶり、元気そうだ!」
「あんたもいい男になって!」
「・・・これ、代金!じゃぁねおばさん!」
「おい、!」
その場にいたくなくて、植物をうけとるとそのまま雨の通りに飛び出した。
どうして、今頃帰ってくるの?
私を置いていったくせに・・・。
バシャバシャと水溜りを跳ね上げながら走った。
とにかく、離れたくて。
それなのに・・・!!
「いや!放して!」
「落ち着け!びしょぬれじゃねぇか!」
腕を捕まれ近くの店先に引き込まれる。
ハンカチで私のことを拭きながら心配そうに私を伺うお兄ちゃんは、なんだか知らない人のように思えた。
「しっ、これでいい。で?なんで逃げたんだ?久しぶりに大好きな兄ちゃんが帰ってきたってのに。」
「何言ってるの?・・・大嫌い!!」
「・・・悪かった。怒ってるんだろう?黙って行ってすまなかった。」
今更、だ。
5年前、お兄ちゃんはなんの相談もなんの挨拶もなくこの町を出て行った。
両親が早くに亡くなった私が、唯一頼っていた存在だったのに。
私は泣いて、泣き叫んで、お兄ちゃんが帰ってくるのを待っていた。
それでも、1年、また1年と時が流れるうちにもう帰ってこないのだと悟った。
そしてすぐに仕事を見つけ、ずっと一人で生きてきた。
口座に、お兄ちゃんから定期的に入金があったけど全て使わずにおいてある。
いつか、こうして帰ってきたときに押し返してやろうと決めていた。
「・・・来て。」
そうだ、返すんだ。
私は一人で生きてる。
貴方なんて必要ないって追いかえすんだ。
ひき止めようとするお兄ちゃんを振り払って再び雨の中を走った。
アパートに着き、部屋に走りこんで通帳を探す。
「・・・、なにして「これ!使ってないから!これをもって早く出て行って!」!おい・・。」《バタンッ》
通帳をお兄ちゃんの胸に押し付けて思い切りドアを閉めた。
ドアの向こうからため息が聞こえる。
早く、早く帰ってよ・・。
ニャァ・・・
ルトア・・・ありがとう、慰めてくれるの・・・?
足に擦り寄ってきた彼を抱き寄せて、その場に座り込んで泣いた。
これでいいんだ。
「っふ・・・く・・・。」
『、聞こえるか?』
早く帰ってってば!
「グスッ・・ふぇ・・・」
『悪かった。何度でも謝る。だから、ここを開けてくれ。開けてくれるまで、ここで待つ。』
開けるもんか・・・・。
・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
どれくらい時間がたっただろう。
ルトアは私の横で寄り添うように眠ってしまった。
寒い。
そうだ、私濡れてたんだ。
シャワーを浴びようと思い立って、立ち上がる。
振動でルトアが顔を上げ、寝室のほうへ走っていってしまった。
ベッドで寝なおすつもりなのだろう。
「くす・・おやすみルトア。」
タオルをもって、シャワールームへ向かう。
濡れてしまった服を脱いで、熱いシャワーを浴びながら昔を思い出した。
いつも優しかったお兄ちゃん。
どこかへ行くときは必ず一緒だったのに・・・。
当時11歳だった私も、16歳。
もうすぐ17だ。
・・・・・お兄ちゃんは、どうして帰ってきたんだろう。
ドクン・・・
なんだか、胸騒ぎがした。
20分ほどシャワーを浴びて体が温まったところであがった。
近くにあったシャツを羽織、下着に足を通す。
ふと、お兄ちゃんの言葉が浮かんだ。
『開けてくれるまで、ここで待つ。』
あれからゆうに2時間は経っている。
もう、いるわけないよね・・。
・・・・
「もしかして・・・。」
もしかしたらいるかもしれない。
いないと思いながらも、そっとドアを開けた。
カチャ・・・キィ・・・
「・・・!」
「よう、って!なんて格好で出てきてるんだよお前は!!」
「なんで・・いるの?」
「待ってるって、言ったろ。それより服をきろ服を!」
そこには、さっきのままずぶ濡れのお兄ちゃんがいた。
髪も、服もべったりと張り付いている。
「風邪ひくでしょ!馬鹿じゃないの!?」
「馬鹿はお前だ!あぁもう・・入るぞ!」
「えっちょっきゃっ!」
言い返す前にいわゆるお姫さま抱っこをされ室内へ連れ込まれた。
そしてソファに私を降ろすと近くにあった上着をばさっとかぶせられる。
「わぷっ何するの!?」
「ったく、これだからガキは・・もう少し恥じらいを持て!」
「なっ私はもう大人ですよーだ!!・・・シャワー、浴びたら?」
びしょびしょのままのお兄ちゃんに申し訳ない気持ちが湧き上がってきた。
「・・そうか?じゃぁ借りるぜって、服が「あるから!さっさとはいれ!」かしこまりました姫。」
にっと笑うとバスルームへと消える。
・・・どうしよう、何もかわってない。
寝室へ向かい、着替えを用意する。
1ヶ月くらい付き合った男が置いていった服。
サイズ的には調度よさそうだ。
脱衣所に着替えを置いてキッチンへ向かう。
コーヒーを淹れて待つことにした。
「服、ありがとな。」
「コーヒー、淹れたから。」
「サンキュ。って!!まだそんな格好で!!」
そんな格好とは、シャワーを浴びたときのまま。
つまりシャツにパンツだけ。
「はいはい、どうせ子供ですよーだ。」
半分開き直ってそのままソファに体を預ける。
シャツのボタンは2つか3つくらいしか留めていないので少し胸やらお腹やらが露出したが気にしない。
「それより、なんで帰ってきたの?」
ソファの背もたれに寄りかかりコーヒーを飲む彼に聞きたかったことを尋ねる。
「・・・ちょっと野暮用でな。」
お互い正反対の方向を向いているから表情はわからないけど、なんとなく嘘をついているのがわかった。
「嘘、嘘ばっかりだね。」
悲しくなる。
いつもそうだ。
いつも子ども扱いして、大切なことは何も話してくれない。
「・・わぁったよ!言うから泣くな!仕事できたんだよ、査察ってやつだな。」
くしゃっと髪を撫でられ、また子ども扱いしてる・・なんて思いながら査察という言葉に引っ掛かりを覚えた。
「・・・査察って・・軍にはいったの?」
「・・・あぁ。」
「どうして!!なんで軍なの!?」
軍人は嫌いだ。
私から家族を奪った。
お父さんも、お母さんも、何もしていないのに。
反逆者の烙印を押され、射殺された。
そのことをお兄ちゃんは知っている。
なのにどうして!!
「軍を変えようとしてる奴がいる。俺はそいつの支えになってやりてぇんだ。」
軍を変える?
そんなの!
「そんなのできるわけないじゃん!!やめてよ!すぐに軍なんて!死んじゃうかもしれないのに!」
「・・・。」
コトっと何かが床に触れる音がして、そのあとぎゅっと後ろから抱きしめられた。
「悪い、でも俺は軍にい続ける。絶対にかえてみせる。そう簡単には死なないさ。」
「・・・っお兄ちゃん・・・」
首に回された腕をぎゅっと掴む。
「だから・・黙って出て行ったの・・・?」
「あぁ、言ったら泣かせるのはわかってたからな・・。」
「私、すごく泣いたんだよ・・帰ってきてって泣き叫んでたんだよ・・。」
「・・・あぁ、俺は泣かせてばっかの悪い兄ちゃんだな。」
ふっと、どこか自嘲気味に笑ったのが伝わってくる。
本当に、本当に馬鹿なんだから。
昔からそうだった。
人がいいから、傷つけないようにってしたことでも裏目に出て傷つけちゃったり。
「馬鹿・・・本当、馬鹿だね!」
「ムカッ馬鹿を2回も言ったな!?」
ぐっと力が込められ息が苦しくなる。
「うっギブギブ!!し、死ぬー!!」
「「・・っくく・・・ははははは!」」
昔とかわらないお兄ちゃん。
軍に入っても、何もかわっていない。
優しくて、お人よしのまま。
「お兄ちゃん、さっきの嘘。」
「なんのことだ?」
「大嫌いっていったの、嘘だから。」
「・・・わかってる。」
ふっと見上げた先には優しく微笑んでるお兄ちゃんがいた。
神さま、どうかお兄ちゃんをお守りください。
おまけ
「お兄ちゃんなんにも変わってないね〜。髭がはえたことくらい?ぷぷっ!」
「んだと?だって相変わらずお子ちゃまじゃねぇか!」
「な!このどこがお子様だっていうの!?」
ばっと、シャツを肌蹴させ胸のふくらみを見せ付けてやる。
「どう?もう子供じゃっきゃぁ!!!!」
「ほほー・・確かにこっちは一人前みたいだな。」
ばっと手を突っ込み胸を鷲づかみにされた。
「こ、こら!!触るな・・っん・・・」
「なんだ、感じちまったのか?」
にやっと笑ったお兄ちゃんに無性に腹が立つ。
「そんなことないかっひゃぁ!」
否定の言葉を最後まで言い切れずに体が跳ねる。
胸の突起を弾かれたのだ。
「・・・「やぁっ・・ちょっと・・ん・・・やめてって・・ばぁ・・!!」・・・俺のこの服、男物だよな?」
「ん・・前の・・彼の・・・!!ぁっ「お前を抱いていいのは俺だけだ・・・。」・・は!?っきゃぁ!」
行きなり立ち上がったかと思えばまたお姫様抱っこされ寝室に運ばれる。
「ちょちょちょ!!待って!待った!お兄ちゃんっひゃぁ!」
ドサッとベッドに下ろされ、ルトアが驚いたように飛び起きて部屋を出て行ったのが見えた。
「何だ、猫なんて飼ってたのか?」
「うん、捨てられてて・・・ってこらぁ!!脱がせようとしない!!」
「はいはい、いいこだから静かにしてろよ。」
「!また子ども扱いっ胸をさわる・・なぁ・・ん・・」
「子ども扱いして欲しくないんだろう?お兄さんが大人の魅力を教えてあげよう。」
「い!いやぁ!まだ子供でいい!子供でいいからぁ!!」
「・・・俺のこと、やっぱ嫌いか?」
シュン・・・と沈んでしまったお兄ちゃんに慌てて思わず口走ってしまった。
そう、この場面では言ってはいけない禁句なのに・・。
「!違う!大好きだよ!・・っあ・・・。」
「そうだろうそうだろう!、俺に任せろ・・・。」
自慢げに笑ったと思ったら、急に真剣な、でも優しい顔をされて思わず頷いてしまった。
「・・お兄ちゃん、いつから発情したの!?」
「お前がソファで惜しげもなく肌をさらした時、だな。」
「!!すけべ!!」
「誘ったのはどっちだ!?」
「・・・抱いて・・くれるの・・・?」
「抱かせて・・くれるの?」
「・・・・。」
「・・・・・本当にいいのか?」
「うん・・・ちゃんと、女としてみてくれたから。」
「・・・・・。」
ちゅっと軽い口付けの後、優しく、優しく抱いてくれた。
でも、最後まではしてくれなかった。
翌朝、目が覚めたらもうお兄ちゃんはいなくて。
残されていた一枚のメモ。
「・・・俺は軍人だ、いつ帰れるかもわからない。いい人を見つけるんだぞ!・・って・・なにそれ・・」
抱いていいのは俺だけとかいったくせに・・!
そういえば、一度も名前で呼んでいない。
今度帰ってきたら、もっと綺麗になって驚かせてやろう。
そしてマース、って呼ぶんだ。
もう私を置いていけないように。
「マース!貴様どこにいっていた!!」
「ロイ〜朝っぱらから怒鳴るなよ。ちょっとな・・。」
「貴様・・・仕事を私に押し付けていなくなるとはいい度胸だ・・。」
「ロイ、ちょいと頼みがある。」
「人の話をきかんか!!」
「俺になにかあったとき、ってやつを守ってやってくれ。」
「・・・なんだ、貴様の女か?」
「・・・いや、俺の妹だよ・・。」
「・・私に任せる・・・といったな・・?」
「あ!てめてぇだすなよ!?」
「ふはははは!そうかそうか、私に任せるか!」
「ロイ!!あ!待ちやがれ!」
こうして私の初恋は終わった。
でも後悔はしていない。
だって、大切なあなたがこう言ってくれたから。
『、俺はいつでもお前を守ってやる。なにかあったらすぐに呼べよ?大切な妹だからな。』
妹でもいい。
だって、恋人と違って決して切れることのない契りだから。
これから、私はあなたの妹として生きる。
貴方の妹であることを、誇りに。
あとがき
様〜!!最後までお付き合いいただきありがとうございますv
ヒューズさん大好きー!なのですがやはりグレイシアさんには勝てない・・ということで!
過去ものにしてみました。
楽しんでいただけたら幸いですv
