不安って、突然襲ってくるものなんだなって良くわかった。
カタチ
目が覚めたら、なんだかとても不安な気持ちが襲ってきた。
まるで自分の体じゃないような、変な感覚。
もう何年も暮らしている部屋。
でも、見覚えがないようながくがく感。
愛用の目覚まし。
あれ?これ本当に私の?
「・・疲れてるのかな・・。」
ここ数日、セントラルで連続殺人がおきている。
犯人はスカーではないようで、狙われるのは一般人ばかり。
まだ足取りもつかめず、少し頭を冷やそうという大佐の提案で
やっと家に帰ってくることができた。
「うん、きっと疲れているだけ。」
自分を納得させ、出かける支度をはじめる。
でもその不安は大きくなる一方だった。
「あら。おはよう。?具合でも悪いの?」
「リザ、おはよ。ん、大丈夫。」
「それならいいけど、無理はしないでね。」
軍に入ってもう2年。
いつの間にか中尉という位まで駆け上っていた。
周りからは異例の出世とか言われるし、上官と寝たとか言われるけど
あんたらがぐーたらしてるからでしょう?って言い返せばすぐに
クモのこのように逃げていく。
馬鹿らしい。
ひがむ暇があったらもっと働けばいいのに。
「、どうしたのかね?機嫌が悪そうだ。」
仕事が手につかず、資料室でぼーっとしていたらマスタング大佐がいつのまにか
後ろから私を抱きしめていた。
はぁ・・朝っぱらからセクハラ・・
「大佐、セクハラです。」
「つれないな。・・最近なかなかこうして話せなくて寂しいよ。」
ちゅっ
首筋に軽くキスを落とされた。
いつも通り。
そういつも通り・・・?
「いやっ!」
思い切り体を捻り、大佐を突き飛ばしていた。
目の前には目を丸くして驚いている大佐の顔。
そしてもっと驚いているのはきっと私。
「・・?」
「あ、ごめんなさい・・。」
「っ。」
後ろで大佐が呼んでいるのが聞こえる。
でも、止まりたくなかった。
走って、走って、あと少しで外・・・というときに大きな影と
派手にぶつかってしまった。
「っいた・・。」
「これは、中尉!大丈夫か?」
「あ、アームストロング少佐・・。」
すっと手を差し出し、いとも簡単に私を持ち上げてしまう少佐の
怪力にはいつも驚かされる。
「どうしたのだ?顔色が悪いようだ。」
「・・・少佐!!」
なんでだろう。
本当に相談しないといけない人を拒んでしまったのに。
気付いたら少佐に抱きついて大泣きしてしまっていた。
「落ち着いたようであるな。」
「はい、すみません・・グス・・・」
「なに、それでどうしたのだ?大佐と喧嘩でも?」
大佐と付き合って1ヶ月。
これでもか!!!ってくらいものすごい押されて、最初は好きじゃなかったのに
気付いたら好きになってて。
「いえ、喧嘩とかはしてないんですけど・・。私、自分が自分じゃないみたいで・・。」
「自分が自分じゃないとな?」
「うん・・・、なんていうか・・体の中に違う私が入ってきたような、でも
うまくシンクロできなくてだぶついているような。。。変な感覚なんです。」
むぅ・・・
少佐は考え込んでしまった。
それはそうだよね。
自分が自分じゃないとか・・・そんなの精神科医にいえって言われそう。
「まるで記憶喪失になったような感覚なんです。仕事や、大佐たちのこと、何一つ
忘れていないけど。知らない人だ、と感じる瞬間があるんです。慣れ親しんだ
場所でも、人でも。それがすごく怖い。」
さっきも、大佐にいつもと同じことをされただけなのに全身がざわっと騒いだ。
キモチワルイって。
あれ?私、大佐の事・・・・。
「中尉?」
「あっなんですか?」
「ふむ、我輩にはなんともいえないのだが・・・少し休むというのはできぬのか?」
できなくはない。
軍にはいって、体調が悪いとき以外休んだことがないから有給も有り余っている。
「それは可能ですが・・。」
「ならば少し休むと良い。きっと疲れているのだ。」
そういって、優しく頭を撫でられた。
私は少佐とわかれ、すぐに司令室に戻って休暇を取りたいという意志をリザに
伝えた。
「ごめんなさい、忙しいときに・・。」
「いいのよ、あなたは働きすぎだもの。ゆっくり休んで。ハボック少尉。」
「なんすか?」
「中尉をお送りして。大佐には私から伝えておきましょう。」
「りょーかい。」
リザが用意してくれた車を少尉に運転してもらい、はじめて早退をした。
そしてはじめての長期連休。
「なんかはじめてだらけ・・。」
「はじめてっすか?」
「うん、休暇とか、早退とか。」
「そっすね、中尉はいつも働き過ぎなんすよ。」
今日何度目かの台詞。
私ってそんなに働いてるのかな。
「普通だと思うけど・・。」
「あ、中尉。タバコもってません?ちょっち切れちまって。」
「タバコ?私タバコなんて吸わないけど?」
「はい?いつもすってるじゃないっすか。」
え?
ふっと、そういえばいつも吸ってた。
でも何故か吸いたくない。
吸っていたことすら信じられない。
「中尉?」
私は・・私は本当に私なの?
どうして、こんなに苦しくて、不安を感じるの・・?
「中尉!」
なにか、大切なものを忘れてしまったような・・。
大切な何か?
それは最初からなかったのかもしれない。
「っ!!!」
「っふぇ!?」
ガシっと『誰か』に抱きしめられふわっとタバコのにおいが鼻を突いた。
「大丈夫か?」
「あのっだ、誰?」
「はい?」
すっと体が開放され、間近には私を見つめる綺麗な青い目があった。
「あ、少尉・・?」
「、どうした?なんか変だぜ?」
「変?」
「なんつーか、いつもと話し方とか、雰囲気が違う。」
ドクン
心臓がこれ以上ないというくらい大きく跳ねる。
違う・・・?
私は、私じゃないと気付いてしまった。