微笑んだあなたはとても綺麗だった。
どうしてこんなにも欲してしまうのだろう。
僕は使徒である前に人間です。
神よ、どうか僕の罪を見逃さないでください。
約束
がアレンに別れを告げてからすでに1ヶ月。
二人は出会ってすぐに魅かれあい、当然のように恋人になった。
しかし、はアレンと別れることを選んだ。
「だって・・私は足手まといだもの。」
誰にでもなく、零れた言葉。
あぁ、こんなにも愛しいのに・・・
神様、どうして私には力をお与え下さらなかったのですか?
が教団の中庭の椅子に座って夜空を見上げていると
明るく聞きなれた声が投げかけられた。
「〜vなにぼーっとしてるさ?」
ラビとはもう長い時間をともにし、親友という頼りになる存在。
「ラビ、ん、ちょっと考え事v」
はごまかす様にラビの真似をし語尾にハートをつけてみせる。
だが、ラビはの気持ちをすぐに汲み取った。
長い間傍にいたのだ、彼女の考えていることはだいたいは理解できる。
「、だめさ?そんな辛い顔していっても。」
すっと、の前にかがみ下から見上げるようにを見つめる。
ラビはもう、ずっとに恋心を寄せている。
しかしその思いが届くことがない事をラビはわかっていた。
だから、少しでも傍にいて、少しでもの支えになりたいと考えている。
好きな人にはいつでも笑っていてほしいから。
「・・・ラビ、私って可愛くないよね。」
いきなり何を言っているのか。
が可愛くないはずなんてない。
「そんなことないさ?はすごく可愛いv」
安心させたくて、いつもと変わらない口調で答える。
「・・私、可愛くないよ・・?中肉中背だし・・顔なんて・・・
リナリーがうらやましい・・。」
意外な言葉の連続だった。
まさか、そんな事を考えているとはラビにも理解できなった。
は、まさに普通の女性である。
とくに秀でて顔がいいわけでもスタイルがいいわけでもない。
だが頭は切れる。
が教団に与えた情報はほぼすべて有益なものであった。
それ故、はコムイたちとは違うポストについている。
また性格も穏やかで、控えめ。
嫌う人間は教団にはいないことは確かだ。
むしろ好かれているといっていい。
「なに言ってるさ。はリナリーや他の女にはないものを持ってる。」
そっと、壊れ物を扱うようにを抱きしめラビは自分のふがいなさに
怒りを覚えた。
「ありがとう・・ラビは優しいね。」
なぜに選ばれたのが自分ではなくアレンなのだろう。
向けられた笑顔はとても辛そうで。
時間を巻き戻したいとラビは願った。
アレンに出会う前に、告白をすればよかったと悔いた。
「・・・?ラビ?。」
急に黙ってしまったラビには不安を覚えた。
今まで、こうして黙って考えに集中するときはだいたい、
自分を責めているときなのだ。
「ラビ、ラビはなにも悪くないよ?どうして震えているの・・?」
自分を抱きしめている体がほんのわずかだが震えていることに気付いた。
いつもそうだ。
ラビはのことを考え、いつも一緒に一喜一憂してくれる。
どうして・・私はラビを好きにならなかったんだろう。
「どうして・・ラビじゃなかったのかな。」
のまたしても意外な言葉にラビは体を離しその瞳を見つめる。
何を伝えたいさ?
そう、ラビの目がに語った。
「いつも・・一緒にいて、一緒に笑って、一緒に泣いてくれたのは
ラビなのに・・。どうしてラビじゃなくてアレンだったんだろう。」
の瞳から零れ落ちる大粒の涙。
ラビは戸惑いを隠せない。
まるで、これが最後のような言葉。
「・・?なに泣いてるさ、これからもずっと一緒にいるって約束するさ!」
精一杯いつもの笑顔を作りそっと涙をぬぐってやる。
怖い、とラビは思った。
こんなにも近くにいるのにがものすごく遠くに感じられる。
エクソシストである以上、生きて帰ってくる保障などできない。
それゆえ滅多に約束事をしないようにしている。
約束を破って、悲しい思いをさせたくないから。
だが、わかっていてもつい言葉にしてしまった。
『ずっと一緒にいる』
「・・ねぇ?どうして私はエクソシストになれないんだろう。
イノセンスの力があれば・・大切な人と一緒にいられるのに・・。」
ラビはいつも思っていたことがある。
それはがイノセンスに、神に選ばれなくてよかった、これからも
選ばれないようにと。
いつ戦闘で命を落とすかわからない状況下にを置きたくなかった
からである。
なのに、はイノセンスに選ばれることを望んでいる・・。
「嫌さ、がイノセンスに選ばれたら俺は神を呪う。」
やっと搾り出した声。
「俺、アレンがうらやましいさ。にこんなに思われて。」
が誰を好きだってかまわない。
ラビは再びを抱きしめた。
「、俺と付き合ってっていったらどうするさ?」
耳元で囁いた甘い言葉。
はその言葉に動揺する。
何を言ってるの?
だって・・ラビは・・
「ラビはリナリーが好きなんじゃ・・・。」
はずっと、ラビはリナリーが好きなのだと思っていた。
同じエクソシストで、あの容姿に性格。
アレンもきっと・・・。
「俺はずっとを思ってきたさ。が好き。」
少しだけまわした腕に力を込めに思いが偽りでないことを伝える。
「、俺と付き合ってほしいさ。」
アレンは任務から戻って、すぐにに会いにいった。
ずっと、任務中にのことを考えていた。
教団をでる直前、突然に別れを告げられ理由を聞けぬまま出てきてしまった。
・・どうして・・!
はじめはゆっくりだった歩調がだんだんと小走りになっていく。
早く、早くに会いたい。
その思いがアレンの歩みを早ませる。
の部屋の前に着いたときにはすっかり息が切れてしまった。
いつも鍛錬しているとはいえ、気持ちも急いている今息を整えるのも難しい。
「・・・すー・・はぁ・・・。」
ゆっくりと一回深呼吸をし、軽くノックする。
コンコン・・
・・・・ガチャ・・
「はい・・?・・っアレン!」
少し時間をおいて開かれたドア。
久しぶりに会うは以前と変わらず、まるで付き合っていたときを錯覚させる。
「・・ただいま。さっき戻ってきました。」
目を丸くして、どうしていいかわからないといったように戸惑っている
を落ち着かせるように、あくまでも平静を装う。
内心では抱きしめて、キスの雨を降らせたいと激しく願いながら。
「あ・・おかえりなさい。・・はいって?コーヒーでいい?」
まさか、こうして会いにきてくれるとは思っていなかったは戸惑った。
団服が汚れ、髪も塵がついているところをみると帰って真っ直ぐ
この部屋に来たのがわかる。
アレンを部屋に招きいれ、コーヒーを淹れようとするとお湯が切れていることに気付いた。
「あ、お湯沸かさないと・・。アレン、先にシャワー浴びて着替えたら?」
はバスルームをチラッとみてからアレンに入浴を勧める。
確か、まだ彼の着替えはクローゼットにはいっている。
今度会ったら、返さなくてはと思っていた。
「そうですか・・?じゃぁお言葉に甘えて・・。」
アレンは本当に別れたのだろうか、と戸惑っていた。
本当に、付き合っていた頃と変わらない会話。
もしやあれは夢だったのかとさえ思えてくる。
シャワーを浴び着替えて部屋に戻るとコーヒーのいいにおいが
アレンを落ち着かせた。
「、・・?」
の姿を探すと、彼女はベッドに横になり呼びかけにも答えない。
そっと近づいて、ベッド横においてある椅子に腰掛け顔を覗き込むと
一定のリズムを刻む吐息が聞こえてきた。
「・・無防備ですね、眠ってしまうなんて・・。」
アレンはそれほど長い間入浴をした覚えはない。
おそらく、20分ほど。
コーヒーの香りに誘われるまま眠ってしまったのだろうか。
「ん・・んにゃ・・・・」
気持ちよさそうに眠るの寝顔に思わずアレンは頬が緩むのを感じた。
可愛い、触れたい・・・。
思いを抑えきれず、そっと、の唇に口付ける。
ふわっとした柔らかい、久しぶりの感触にアレンは酔いしれた。
「、好きです。僕は別れたつもりはありませんよ?」
前髪を軽く流し、額にも口付ける。
愛おしい。
狂わしいほどに。
「・・ん・・・ぁ・・アレン・・?」
はくすぐったいような、心地いいような感触に目を覚ました。
目の前には湯上りで少し色づいた頬に、しっとりと濡れた髪が艶っぽい
アレンの顔。
「・・・アレン、色っぽい。」
の頭を軽く撫で続けていた手が思わず止まる。
「色っぽいって、男に言う言葉ですか?」
らしい言葉に、笑みがこぼれる。
僕に言わせたら、今のあなたのほうが色っぽいですよ?
なんてアレンが思っていることなどがわかるはずもない。
「ぇ・・だって、神田君も色っぽいときあるよ?」
神田、女性よりも美しい容姿に思いを寄せる団員(男)もいるとか。
「ふふ、神田は綺麗ですから。」
本人の前では決して言えない本音がさらっと言えてしまうのはの独特の
雰囲気にある。
なぜか、には警戒心など抱けず思ったことが素直に言えてしまう。
それはアレンだけではなく、誰もが感じる感覚である。
「、疲れているんじゃないですか?」
アレンはシャワーを浴びている間に寝入ってしまうほど、は疲れて
いるのだろうかと少し心配になった。
は夢中になると寝るのも食べるのも忘れてそれだけに向かうことが
しばしばあった。
「ん?疲れてないよ?ただコーヒーがいい香りで、気持ちいいって
思ってたら・・寝ちゃったみたい。」
照れ隠しに笑ったの顔にアレンは自分の中で何かが壊れるのを感じた。
「っア、アレン?」
上体を起こし、こちらを向こうとしていたを抱き寄せる。
久しぶりに感じるの体温、鼓動、形、重さ。
「、愛してます。」
突然のことに動けないでいるに深く口付けそのままベッドに押し倒す。
「ん・・んっはぁ・・んっ」
苦しそうに漏れるの息にアレンはもっと乱れさせたいという思いが
湧き上がった。
「っアレン、やめて!」
だが、その思いも吹き飛ぶほど大きな声で拒絶されアレンは呆然と
を見つめる。
「・・。どうしてです?」
苦しくて、悔しくて、悲しみが込みあがってくる。
こんなにも愛おしいのに。
「ごめんなさい・・。」
「理由を聞かせてください!僕はなにかしたんですか!?
あなたを傷つけることを言いましたか!?何度でも謝ります・・
ごめんなさい・・ごめんなさ・・っく・・」
アレンはを組み敷いたまま思いをぶつけ、高ぶった感情に
涙が零れた。
「アレン・・・」
「、、愛してます。ごめんなさい・・僕を一人にしないで・・。」
アレンは幼い子供のように泣きじゃくり、に許しを請う。
そんなアレンの姿には胸を焼かれるような熱さを感じた。
こんなにも愛されている。
も、アレンを愛している。
それでも・・
「一緒にはいられないの・・。あなたは優しすぎる。」
の言葉を理解しようとアレンが必死になっているなか、は
そっとアレンの両頬を手で柔らかく包んだ。
「あなたは、私が危険にさらされれば、身を挺して守ってくれる。」
「当たり前です。あなたを失うなんて「いや、あなたを失うなんて」っ・・」
だから別れたの、あなたの命を失うのが怖いから。
そう、そっと告げたにアレンは言葉を失った。
自分を思うが故に傍を離れていった。
そんなの・・
「そんなの悲しすぎます。約束します、僕は死なない。そしてあなたを
守ります。」
いつの間にか止まった涙。
頬からのぬくもりが伝わってくる。
改めて刻んだ思い。
「・・・私より、リナリーやミランダのほうがあなたにはふさわしいわ。
自分の身は自分で守れる強さがあるもの。私は足手まといになるだけ。」
そう呟いたに、アレンはさっと怒りが湧き上がった。
「ならどうしてラビと付き合っているんですか?」
アレンは教団に戻ってすぐ、リーバーからラビとが付き合っていると聞かされた。
リーバーはを妹のように思っていて。
アレンと付き合うことを心から喜んだ。
しかし、最近のの様子に黙っていることができなかったのである。
黙っていても、いずれはアレンも知るところ。
「・・・ラビは、私が襲われても無理な行動はしないって約束してくれたの。
それに・・、こんな私のことを好きだって・・。」
「僕だってのことが好きです!愛してる・・どうしてですか・・ラビだって
あなたが危険な状況になれば必ず身を挺して守るはずです!」
の言葉は矛盾している。
その矛盾が耐えられなかった。
「・・・アレン・・あの「僕は別れたつもりはありません。」・・アレン」
すっとから離れアレンは扉へと向かう。
「どこへ行くの?」
アレンのただならぬ雰囲気に不安がぬぐえない。
「、ここを動かないでください。」
バタン・・
という音とともに廊下に出て行ってしまった。
「アレン・・私もあなたを愛してる。。」
ふつふつとこみ上げるアレンへの思いに涙が止まらなかった。
「ラビ、ちょっといいですか?」
ノックもなしに突然部屋へとはいってきたアレンにラビは目を丸くする。
「アレン、いつ帰ったさ?」
飲もうとしていたコーヒーをテーブルへ置き、アレンの下へ歩み寄る。
「ラビ、と別れてください。」
きっと、ラビを睨んだままアレンは殺気をも放っている。
そんなアレンに少し恐怖を覚えながら慎重に言葉を紡ぐ。
「なに言ってるさ?アレンにそんなこと言われる理由はないさ。」
「僕はと別れた覚えはありません。」
間髪いれず言葉を発してくるアレン。
ラビはもう潮時か・・?
と、内心毒づきながらアレンを落ち着かせようと試みる。
「アレン、落ち着くさ。」
「落ち着いてます!あなたは、に危険な状況でも無理をして守らないと
約束したそうですが本当に守れるんですか!?ラビだって、が危険な
状況になれば後先考えず守るはずです!僕は絶対に死にません、そしても
守り抜きます「、もうここら辺で潮時さ。」っは!?」
ラビのわけのわからぬ言葉にアレンは言葉に詰まる。
するとそっと、ドアの影からが姿を見せた。
なぜがここにいるのかわからない。
「アレン、ごめんなさい。ラビと付き合ってるって嘘なの。」
嘘、という言葉にさらに混乱するアレン。
「え・・じゃぁ別れようっていうのも・・」
「それは本気でいったの・・それで・・その・・・」
どう説明しようか困惑しているを見かねてラビが助け舟を出した。
「つまり、こういうことさ。は本当にアレンと別れてた。それは自分が
足手まといになると思ったからさ。それに自分よりリナリーのほうが
アレンにふさわしいと思ってたから。
それでもアレンのことが好きで毎日泣いてて、見かねた俺がある提案をしたさ。」
「提案・・?」
「俺と付き合ってることにして、アレンがどれだけのこと好きか確かめてみって。
アレンがのことすごい好きなのはわかってたからこうなるだろうと思ってさ。
んで、もしあっさり身を引くくらい軽い気持ちなら俺と本当に付き合おうって、提案。」
「な・・・・」
「それくらい強い気持ちがあれば、絶対にアレンは死なない。も守り抜くって
思ったさ。試して悪かったさアレン。」
ラビのすまなさそうな顔に、の悲しそうな顔を交互に見比べるアレン。
まだ混乱して事情がうまく飲み込めていないらしい。
「・・でも、別れてたから・・できたの。これで嫌われたら仕方ない・・って・・」
その言葉にアレンは不安が込みあがってきた。
別れてからのあいだ、ずっとラビが傍にいた。
そして別れているという事実。
「・・僕は・・あなたが好きです。むしろ試してもらって嬉しい。
僕も自分の気持ちをはっきり自覚できたし、あなたにそれだけ思われていると
安心できました。、もう一度僕と付き合ってくれますか?」
の前に片ひざをついて、ゆっくりと下を向きながら問う。
「・・・私で、いいの?許してくれるの・・?」
目前の床に飛び散った水滴にアレンのそれもまじる。
「僕にはあなたしかいません。」
勢いよく立ち上がりを抱きしめる。
そしてアレンはもう一度、思いを新たにした。
『絶対に死にません、あなたを守り、あなたの元へ帰ってきます。』
おまけ
あ〜ぁ・・結局うまくいっちまったさ〜。
「ラビ、ありがとう」
の笑顔に複雑な思いを描くラビ。
本当は、このまま別れてくれればいいと、ほんの少しだけ思っていた。
に以前と同じ、なんの不安も感じさせない笑顔が戻り、
それを取り戻させたアレンに嫉妬する。
だが、ラビはどこかほっとしていた。
「いいさ、お幸せに!アレン、を泣かせたら許さないさ。」
こうして、アレンとは再び恋人という関係に戻ったのであった。
「あ、ラビ!僕のいない間にになにもしてませんよね?」
「え・・な、なにもしてないさ!(本当は一緒に寝たりしたけど・・)」
「アレンたら、ラビとは寂しいときに一緒に寝てもらったくらいで
なにもされてないよ。」
のさらっとした爆弾発言にアレンの戦闘スイッチがONになり、
ラビが教団中を逃げ回ることになったのは言うまでもない。
「!それは内緒っていったさ〜!!!」
あとがき
なんか・・最初のほうはシリアスだったのにギャグで落ちてしまいました・・。