目が醒めて、真っ先に現れたのは彼だった。
とても悲しそうで、泣き出しそうな笑顔で私を覗き込んで。
「おはよう。」
そう言うとそっと私の頭を撫でてくれた。
それはとても暖かで、心地よい感動だった・・・・。
目醒め
その日は少し肌寒くて、とても空気の澄んだ初冬の朝。
いつものように学校へ向かう途中、私の目にふと見られない小道が飛び込んできた。
その道はゆるい上り坂になっていて、まるで私を誘うかのように柔らかに暖かな空気が漂っている。
「・・・こんな道あったんだ。う〜ん・・・・」
今日は少し早く家を出たから学校が始まるまでまだ余裕がある。
調度方向的にも学校のほうだ。
もしかしたら近道かもしれない。
「行ってみるか・・・」
そう自分を諭すように呟いて、私は誘われるままに小道の中に足を踏み入れた。
どれくらい時間がたったのだろう。
歩くにつれ小道はまるで異国の道のように赤レンガの道に変わり、
徐々に空気さえ変わっていくようだ。
ふわっと心地いい風が私を包む。
あまりのやわらかさに目を閉じ、しばし風と戯れる。
「・・・え?」
風が止み、目を開けるとそこはもう・・・私を誘った道ではなかった。
あまりのことに脳が混乱し、様々な情報が頭をよぎる。
「えっと・・え?」
私の目前に突如として広がったのは見慣れない都市だった。
まるで一昔前のヨーロッパのような。
その都市は霧に包まれ、赤レンガの町並みをただ悠然とそこに築いていた。
「・・・すーっ」
ばっ!
私は覚悟を決め後ろを振り返る。
そこに私をここへいざなった道が続いているのを願いながら。
しかし、私の願いは砕かれた。
それはもう粉々に。
「っはい?」
私の背後に広がっていたのは、どこまでも広がっていそうな鬱蒼とした
森だった。
状況に頭がついていかない。
つまり動けない。
そんな私の前に何かが近づいてきた。
森の獣道?のようなただ踏み分けただけの道をゆらゆらと誰かが歩いてくる。
もしかしたら何か聞けるかもしれない。
その人物は私の前で立ち止まった。
髪は長くやはり、年代を感じるファッションの服を着た女性だった。
まるで時代を間違えたような、そんな感じだ。
年齢は私より少し上だろう。
「・・・あの」
勇気を出して声をかけてみる。
止まってくれたということは彼女も私に関心を持ってくれたということだろう。
「ここはどこですか?私、っ!!!」
道に迷ったみたいで、という言葉は続かなかった。
何か得体の知れないものが私の首をつかみ女性だったそれは今は・・・
「みぃっけたさぁ!満満満!!!!」
??
薄れゆく意識の中で大きな金づちが振り下ろされるのをみた。
・・・・・・・ん・・・?
「あ、気づいた?」
体が重い。
ゆっくりと目を開くと目の前に心配そうに覗き込む男の子の顔。
「・・ん・・え?」
なんか今日は驚いてばかりだ。
「あぁ〜よかったぁ、待ってな?今水持ってくっからさ。」
そういって男の子はすぐにコップいっぱいの水を持ってきてくれた。
その水を受取るとひどく喉が渇いていることに気づく。
私は一気に飲み干してしまった。
「はは、のど乾いてたんね。慌てんでもたくさんあっからさ?」
一気に飲んだため息苦しくて息を整えている私の頭をそっと撫でる。
「俺ラビ。あんたは?」
「・・・・・・」
「か・・よろしく〜。」
そういって撫でていた髪をくしゃくしゃっとされた。
「な、何するの!?ひどい・・・・」
少し落ち着いた私は冗談のつもりで泣きまねをする。
「っ別に悪気はないさ?ちょっとからかおうかと・・ごめんなぁ?」
泣きまねだと気づかないのか必死に弁明する彼が可愛くて
「ふふ・・」
笑ってしまった。
「?泣いてないん?マジあせった・・・・」
ひとしきり笑った後彼と目が合った。
にっこりと微笑まれて思わずその顔に見とれてしまった。
「ん?どうしたさ?」
「えっなんでもない!」
恥ずかしくて顔が赤くなる。
「はは、顔真っ赤。」
覗き込んでくるので見られまいと顔を背ける。
そうだ・・そういえば・・・
「ここどこ?」
「病院。」
「へ?」
あの都市を見下ろせた丘からいきなり病院?
「なんで?私怪我なんて・・・」
していない、というつもりが自分の体を見てびっくり。
「してる・・・。」
包帯が巻かれた腕や足、体のあちこちが急に痛み出した。
「あいたたた・・・痛い痛い・・」
「ごめんな?がいるの見えなくてさ・・これ位ですんでよかった。」
ラビはとても辛そうな顔をしている。
「・・・あの、ごめん。状況がわかりません。」
私は自分の今朝からの事をラビに話した。
まだ会ったばかりなのに、いや、きっと会ったばかりだから。
この訳のわからない状況になって、初めて言葉を交わし、優しくしてくれた人だから。
「・・・う〜ん・・・俺っちも良くわかんね。コムイに聞いてみっか。」
「コムイ?」
誰?
と首を傾げた私にラビは微笑みながらこう答えた。
「黒の教団の技術開発局の局長さ。」
・・・
なんだそりゃ・・・・。
あとがき